ただの「解雇特区」案がまとまったが、攻め手のヒントも得られた
経済界が本格的に進めたいと考えている労働の規制緩和の姿が明らかになってきた。
「国家戦略特区」の検討を進める有識者ワーキンググループが4日、明らかにしたところによれば、
- 解雇のルールを明確化
- 有期雇用の規制緩和
の2点をまとめてきた。
労働時間規制はとりあえず外されたが、これは次にとっておいたと表現した方が正しいだろう。
【解雇特区】戦略特区WG案:契約で解雇可能に 外資の誘致狙う http://t.co/JqG65LF6lq
— にいがた青年ユニオン@新潟革命なう (@seinenUnion) 2013, 10月 5
1 解雇ルールの明確化は、経済界の悲願
「解雇特区」と名付けられた今回の構想だが、着想は何も新しいことではない。
解雇は、使用者が労働者に対して労働契約を打ち切ることを指すが、もちろん、労働者への影響は非常に大きく、大きなトラブルに発展しやすい。
裁判でも幾度となく争われ、「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる」という考え方がほぼ確立している。つまり、解雇の理由についての立証責任は、会社側に課せられることになる。
労働契約法16条には、こうある。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
かつて、自民党は、2003年の労働基準法改悪案に「使用者は労働者を解雇できる」という文言を入れようとした。それに失敗すると、今度は今年春の参院選前に「解雇の金銭解決」を導入したいという情報を流し、その反発が大きいことを知るや、取りやめた。
彼らは、いつでも「合理性がなければ解雇できない」を「合理性があれば解雇できる」に変えたいと考えている。
同じように見える日本語だが、まるで異なる。
2 有期雇用を無期雇用に変えたくない
改訂された労働契約法では、有期雇用されている労働者が通算5年くり返し雇用されると無期雇用に転換するルールが盛り込まれている。
しかし、現実には、くり返し更新されて実態として無期雇用になっているケースも多いし、無期雇用になったところで労働条件は変更する必要はない。そして、無期雇用か有期雇用かによって、「合理性がなければ解雇できない」に違いはない。
それでも、経済界は、無期転換をおもしろくないと考えているようだ。
正直言って、この理由がまるで理解できない。
しかし、あえて彼らの立場に立って、何とかその理由を考えてみたいのだが、無期雇用であれば「解雇する」というべきところ、有期雇用であれば「更新しない」ということに変わるという点だ。
法廷などで争えば、さして変わらないのだが、一般的な感覚として「そういう契約なのだから仕方ない」と考えてしまう労働者の方が多いだろう。
しかし、そもそも使用者と労働者の契約は対等ではない。契約書を隅々まで読んで署名捺印することも一般的ではない。
まずは、生活。
それが、一般的な労働者の感覚だ。
不平等な立場では、労働者に契約を選ぶ自由はない。まして、失業すればホームレスまで真っ逆さまという日本社会では、この圧力はとても大きい。
労働者は「最初からこういう契約だから」に騙されてはいけない。生活がかかる不平等な契約に選択の自由はない。ここは、抵抗を示さなければいけないところだ。
弱点を攻めるのが定石
彼らがそう変えたいと考えているのであれば、それは彼らの弱点であることを示している。
自民党が政権に復活して、経済界もやりたい放題に見えるが、「合理性なく解雇できない」は、労働者にとって強力な突破口だ。
しかし、現実を考えたとき、ひとまず解雇され、生活費が途絶えたところで、一人で争うのは非常に勇気のいることだ。できれば避けたい事態でもある。
したがって、これまで多くの人が法廷で争って、勝ち得てきた成果を十分に活用し、一人ではなく労働組合に結集して、できるだけ勝てる確率を高めた上で勝負する方がいいだろう。
5年以上雇わない?改定労働契約法を逆手に取った悪用
この求人を見て欲しい。
「直営教室で、契約社員から始めませんか」との公文の求人だ。
そんな呼びかけで始まるから、当初は契約社員だけれども…と思うかもしれない。
しかし、内容をよく見てもらいたい。注目すべき部分は、赤く囲っておいた。
契約期間は、教室運営開始月から24ヶ月間。手っ取り早く言えば2年間契約ですということだ。
そして、「※契約期間終了後、双方合意の上、1回に限り、契約更新可能」とある。これは、2年間が終わったら(実際上は2年が過ぎる前に)、契約更新の合意が成立したら、もう2年間は働くことができるけれども、その場合は「次の更新はありません」という意味だ。つまり、最長でも4年間しか働けない契約社員という意味だ。
近頃、この手の更新上限を定める会社が出てきた。
改定された労働契約法のためである。
新18条は、反復更新された有期労働契約が通算5年を超えたとき、労働者の申し込みによって、無期労働契約に転換することが定められている。このことは、有期労働契約であっても実態として繰り返し更新が行われていることが一般化しているので、有期労働契約で働く人たちを保護する目的で作られたものだ。
しかし、その趣旨に反する会社が多い。
無期転換したところで、その他の労働条件は何も変わらないのだから、人件費が増えるわけでもなんでもないというのにだ。
そして、今回例示したように5年を超える反復更新とならないように、予防線が張られてる求人が増加している。
やはり、有期労働契約は、期間の定めそのものに合理性がある場合に制限すべきだ。そうしなければ、現在、有期労働契約で働く労働者は、ここ数年間で全員漂流することになってしまうだろうし、これから社会に出てくる学生は、最初から漂流民になることが確定してしまうことになる。
バイトだから転職したらとそんな簡単な話にはならない
有期契約の5年上限をもうけることに合理性はない!団体交渉2回目 - http://t.co/E0PS18gneX 形ばかりの有期契約を結ぶ労働者は約1200万人。その人たちが漂流させられる!大問題!!
— にいがた青年ユニオン@新潟革命なう (@seinenUnion) September 11, 2013
「どうせバイトなんだし、そんなに会社が嫌なんなら、辞めたらいいじゃない。」
ブラック企業という言葉が満ちあふれるようになって、以前からまして「どうせ嫌なら」というのが強まっているように感じるのは気のせいだろうか。
でも、待ってほしい。
「どうせバイトなんだし」というあなたは、一体どんな人生を送ってきて、そのバイトをしている人はどんな人生を送ってきたか、想像したことがあるだろうか。
「自分とは人生を歩んできた人たちがごまんといる」とは想像しながら話していないと思う。
「非正規」労働者として働き続ける組合員の何人かが話してくれたことがある。
学校を卒業して入社した会社が、ブラック企業だったから、辞めなくてはいけなかった。それ以来、正社員になれない。
つまり、想像してもらいたい。
履歴書の欄にこう書いてあるわけだ。
???高校卒業
株式会社*****入社
同社を自己都合により退職
これを見た面接官は何を聞くだろうか。
親が倒れて、介護をする必要があったのでフルタイムで働けなくなったから、パートになった。いまは、その必要がなくなったけれども、かといって仕事しながらの転職活動には限界があるし、かといって、収入が絶えれば生活が成り立たない。
新しい会社に入社すると、2ヶ月ほど無給になるということを理解してもらいたい。
9月1日に入社。
給料の締め日は9月30日。
給料支払日は10月31日。
これで、2ヶ月無給で仕事し続けることになる。
2ヶ月間、あなたとその家族は何の問題もなく生活ができるだろうか。
「そんな仕事なら」。
その一言は簡単だ。
しかし、人生は人それぞれ異なっている。
そんな簡単に片付けられるものではないし、簡単に全員があなたの思う「成功した人生」を歩めるわけではない。
最低賃金よりも低い時給で働いていたら
(働く人の法律相談)最低賃金が時給より上がったら - 朝日新聞デジタル (http://t.co/0Gjk4nXQ0b) http://t.co/eVwi3aWKmZ 「わかってて契約したんでしょ?」という開き直りの経営者がたまにいますが、 勉 強 し ろ 。
— にいがた青年ユニオン@新潟革命なう (@seinenUnion) September 10, 2013
最低賃金よりも低い時給での労働契約は、その部分が無効になって、時間単価は最低賃金ぴったりで働いていたことになるというのが、日本のルールです。
サービス残業とか社会保険未加入とかでもあるんですが、「最初から、そういってあったでしょ?」「わかってて、働き始めたんでしょ?」という経営者は、日本のルールを知りませんでしたみたいなことを告白したようなもの。
ルールはルールです。
自動車を運転するのに、道路交通法を知りませんでしたではすまないでしょ?